皆既日食を求めて3
島には、旅行者を受け入れる施設はほとんどなく、キャンプをするにしても、食料も現地で調達することはできないし、水もトイレもなにもありません。
島々をつなぐフェリーは週2便です。このフェリーは島民の足ばかりでなく、食料も荷物も何もかもがこの船で運ばれます。この船の運航のために、十島村はたくさんの予算を使っていますが、自力で運航できるわけではなく、県とか国とかから予算をつけてもらっているようです。
そんな小さな島に、もし、一時的にせよ何千人もの人が島に上陸したら、島が荒らされるのではないか、もし、急病人などが発生したらヘリで病院に搬送しなくてはならないのではないか、水がいっぺんになくなり、島の人たちが生活できなくなるのではないか、ゴミが大量に発生するのではないかなどなど、たくさんのことを十島村は心配し、自分たちの財政ではとてもまかなえない、これは島にとっては人災だ、とのことから、Kツーリストに旅行客のコントロールの一切合財をお願いしたそうです。
つまり、島民の親族以外は、ツアー客として皆既日食に参加していただきたい、とのことでした。
ひとり40万円です。撮影のスタッフはカメラマン、カメラ助手、録音、監督、制作、最低でも5人はいます。
それだけで200万円です。撮影機材を借りて人件費も払わなければなりません。それも一日ごとに費用がかかります。ツアーは最低でも5日、そこに鹿児島の往復を入れて6日。つまり6日分の機材費と人件費も払うことになります。どう見積もっても400万円近くがかかるのです。
テレビ局や国立天文台などの専門家なども皆、ツアー客として扱い、それもすべて抽選します、との説明でした。島のインフラ整備は受益者負担なので、ツアー代金が高くなるとのことでした。
あまりにも私たちにはハードルが高すぎました。
それでも、役場のあと、諏訪瀬島には予定通り訪れ、青木さんから紹介された島民の方々に、地球交響曲の説明をしました。
2月、Kツーリストから呼ばれました。何をしようとしているのか、説明してほしいとのことでした。
企画書を持って伺い、映画の構想を説明しました。
なぜ諏訪瀬島になったか、その経緯もお話し、青木さんから船を持っている人がいるので、頼むことができる可能性があるといわれたことや、滞在に関しては島民の方が協力してくださるので、Kツーリストのキャンプサイトは使わないし、食糧、水、電気もすべてこちらで用意するつもりであることを率直に話しました。すると担当者は「ゲリラ上陸は認めない」と言い放ちました。(・・・私たちはゲリラなのか、と唖然としたのはいうまでもありません)
数日後、Kツーリストから電話があり、「特別にマスコミ枠に入れるようにするので、ツアーへの申し込みを1週間以内に決めてほしい」と言われました。マスコミ枠といっても、抽選もあるとのことで、ツアー客となんら条件は変わりません。その場で私は、「ひとり40万円なんて払えません。申し込みなんかとてもできません」と断りました。
「そうですか、残念ですね」と電話は切れました。
これで諏訪瀬島への道は、閉ざされたのです。(つづく)